僕は東京出身なのですが、生まれ育った場所がとても自然豊かな場所で、にも関わらず新宿へ電車一本で行けるというなかなか便利な場所でした。
小学生の頃はよく夏休みになると山や川で遊んでいた事を思い出します。
夏は川で涼みながらザリガニを取ったり、釣りをして小魚を取ってみたりしていましたが、沢蟹を取るのもかなり楽しかった覚えがあります。
ある川の源流付近でよく遊んでいましたので、川の水は非常に綺麗で沢蟹を含め、たくさんの生き物が川の中で生きていました。
川の中にいる生き物の中でも、沢蟹は僕らの中ではトップクラスに人気の生き物でザリガニと同じぐらい貴重な生き物という認識でした。
とある夏休みの日、友人三人と午前中から沢蟹を取り始め夕方ぐらいまでずっと沢蟹を取り、バケツにはたくさんの沢蟹が集まりました。
あの透き通った灰色の身体が何とも言えず、バケツでうごめく沢蟹の群れを見て非常に満足していました。
あまりにたくさん取れたので、僕らは誰かに自慢したくなり川の傍に住んでいる駄菓子屋さんのおばあさんに自慢しに行きました。
すると駄菓子屋のおばあさんは
「よく取れたなぁ。ちょっとばあちゃんに貸してごらん。揚げてくれるよ」
と言ってくれました。
僕らは沢蟹が食べられるものだと知りませんでしたので、沢蟹を揚げて畑の肥料にでもするのかと思っていました。
おばあちゃんに与えられたアイスを食べながら、沢蟹を待っているとおばあさんが大皿に揚げた沢蟹をたくさん乗せてやってきました。
「ほれ、出来たぞ。自分で取ったものだから美味いぞ」
僕らは沢蟹が食べられると知りませんでしたので、誰も手を付けませんでした。
その様子を見かねておばあさんが沢蟹を一つ手に取って、おいしそうな音を立てながら一つ食べました。
「うん、美味しい、美味しい。おめぇさん達が食べないなら、私が全部もらってくれるぞ?」
と言われました。
僕らは恐る恐る、沢蟹を手に取り口に入れました。
その時の感動は今でも忘れられません。
川海老のから揚げがよく居酒屋のメニューでありますが、風味はそれに近く、内側から染み出るかにのエキスがあって、想像を絶する美味しさでした。
今思うと、軽く塩が振ってあったのだと思います。
僕達は一日中、川で遊んでお腹が空いていた事もあり、一斉に沢蟹に食らい付きあっという間に沢蟹のから揚げはなくなってしまいました。
今でもたまにその川の傍を通ると、もう潰れてしまった駄菓子屋さんを思い出します。