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カニの爪のフライ

僕は初めてかにを食べた時の感動を今でも忘れる事が出来ません。
小学校高学年の時、僕の従兄弟の結婚が決まり人生で初めて結婚式に出席した時に、出された料理の中にカニ料理がありました。
今ではそれほど驚く事がないのですが、カニの爪の部分をそのままフライにした料理でよくオードブルなんかに入っている揚げ物なのですが、そんなものを見たのは初めてでしたし、まずそれがカニだとは思いませんでした。
どうやって食べるのかさえ分からなかった僕は右往左往しながら、結局、最後までかにの爪が皿の上に残ってしまいました。
それを見た母が
「カニ嫌いだっけ?」
と聴いてきて、僕の目の前にある揚げ物が初めてかになのだと分かりました。
「どうやって食べたら良いの?」
と母に聞くと、爪を持ってソースをフライ部分に付けて食べれば良いと知り、恐る恐る言われたとおりにやってみました。
かにがこんなにおいしいものだとは思っていなかったので、絶句してしまったのを覚えています。
もちろん、ホテル側の調理が素晴らしかったのだと思いますが、僕はカニを食べたのが初めてでしたので、カニはこんなにおいしいものなのだとインプットされてしまいました。
それから事ある事に両親にカニが食べたいと強請っていたのですが、カニなんてそうそう簡単に食べられるものでもなく、成長期の僕を満足させる分のカニともなればかなりの値段になってしまう、という事もあって僕はそれから高校生になるまでカニを満足に食べる事はありませんでした。
その間も何度かカニを食べる機会はあったのですが、どれも一口分だけ、という感じで満足するほど食べれたのは高校生になってからでした。
先日、幼馴染同士で飲み会を開いていたのですが、居酒屋のメニューにカニの爪のフライがあって、懐かしくなって頼んでみました。
カニの爪の肉ももちろん大きく入っていたのですが、周りをカニクリームで包んであってかにクリームコロッケの中に、カニの肉が入っている、という料理になっていました。
揚げたてですごくおいしいフライだったのですが、過去が美化されているのだと思いますが、あのホテルで食べた冷たいフライの方が美味しかったような気がします。
今ではカニにそれほど感動する事も、食事をしていて絶句をすることもありません。
そう考えてみると、小学生の頃の僕というのはかなり幸せな環境にいたのだと思います。
何も知らないからこそ、知った時の感動も大きくなるのでしょう。

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