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カニの味噌汁

当時18歳だった私にはあまり食事に贅沢をする金銭的な余裕はありませんでした。
その頃の私は兵庫県の城崎市にある温泉街の旅館で住み込みの仲居として働いていました。
季節は冬で、城崎の冬の風物詩とば松葉ガニです。
北海道出身の私にとってはカニといえば毛ガニやタラバガニだったので、松葉ガニがズワイガニと同じだと知った時には新鮮な驚きがありました。
とにかく、所変わればカニも変わる。といったところで、こちらではカニといえばズワイガニのようです。
私が働いていた旅館に訪れるお客様の多くが温泉と同じくらいか、それ以上にカニ料理を楽しみにされていました。
旅館では2人の板前さんが腕を振るっての豪華で美味しそうな料理が振る舞われます。
やはり、カニを使っての料理がメインになっていました。
お造り、カニしゃぶ、焼きカニ、てんぷら、カニ鍋とカニみそを隠し味にした締めの雑炊・・・・・・
それらの美味しそうな料理を・・・・・・運ぶ!!
仲居だった私は厨房と客室を出来立てアツアツなうちにお客様のもとへ届けるべく走って往復する日々です。
料理を運び、テーブルに並べ終えた時のお客様の嬉しそうだったり驚いたりした表情を見るのが私の楽しみでした。
運ぶ為のごちそうを、まるで一緒に頂いているかのように、嬉しい幸せになる瞬間です。
あまり金銭的な余裕がない中でしたが、お休みの日には仕事の一環と自分に言い訳をしておいしいカニ料理を食べに行ったりもしました。
茹でカニの食べ放題だったり、ちょっと奮発してカニすきだったり、美味しいカニ料理はたくさんありましたが私にとってのとっておきは、以外にとても身近に。
旅館での忙しく動き回る仕事の合間にできるちょっとした空き時間に、板前さんが「予備が余ったから食え」とひょいっと出してくれる、カニのてんぷらや焼きカニの味は格別でした。
何の盛り付けもなく、時には手渡しのこともあったのですが当時の私には豪華に盛り付けられた料理よりもとっておきのごちそうでした。
中でも私の忘れられないカニ料理といえば、毎朝のまかないで頂くカニの味噌汁です。
お客様の朝食用に大量に作る味噌汁を私たちも頂いていたのですが、これが本当に美味しかった。
豪華な料理は毎日食べると飽きると言いますが、カニの出汁がしっかりきいたベーシックなこの料理は毎日食べても飽きませんでした。
早朝からの仕事でしたが、この朝食のおかげで毎朝元気でした。
考えてみれば、毎朝の朝食にカニの味噌汁(しかも大きな身がいっぱい入った)を食べるなんて結構な贅沢です。
今でも朝に無性に食べたくなる、思い出の味です。

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