食卓は美しかったです。
盛り付けも上手だし、なによりものすごく美味しかったのです。
なかでも美味しかったのは、かに玉でした。
一口食べて、あまりの美味しさにわたしはおののき、しばらく黙りこくってしまったくらいです。
「どうしたの、美味しくなかった」
と、心配そうに彼氏が聞いてきました。
わたしはかぶりを振りました。
「すごく、すごく美味しい」
むらむらと悔しい気持ちが沸き起こってきました。
どうしよう、このままではいけない、と非常な焦りが出てきました。
本当に、あの気持ちをどう表現してよいものやらと思います。
女の責任でもある日々の料理が、彼氏のほうが上手だなんで、しかも段違いに美味しいなんて、あまりにも情けないことです。
「ねえ、このかに玉どうやって作ったの。わたし今度作ってみる」
たぶん、わたしは必死な表情だったのだと思います。
彼氏は、ぽかんとしてわたしを見ていましたが、すぐに頷いてくれました。
「なにも特別なことなんかしていないよ」
と、彼氏は言っていましたし、確かに彼氏に教えられた内容は、ごく普通の手順で作るかに玉でした。
それでも不思議なことに、彼氏の作るかに玉とわたしの作るかに玉は、まったく別物なのです。
彼氏のかに玉はしっとりとして美味しく、色もかたちも美しいです。
ところが、わたしのかに玉は、ぼそぼそしてめちゃくちゃな形なのです。
「99パーセントの努力で、才能が無いのをカバーしてやるからね」
と、むきになってわたしは頑張りました。
毎日がかに玉でした。
本当に彼氏には申し訳ないことをしたと思います。
必ず夕食はかに玉。
それでも嫌な顔ひとつせずに食べてくれ、評価までしてくれた彼氏は、わたしにはもったいない位の人ですね。
ようやっとのことで、わたしはかに玉を普通に作ることができるようになりました。
得意料理は、かに玉!
と、言うことができるほどです。
彼氏も嬉しそうに
「えみちゃんのかに玉は、世界一おいしい」
と言ってくれます。
ところが、問題は、かに玉以外の料理がてんでダメ、ということです。
「大丈夫だよ、かに玉以外の料理も、そのうち上手になるからね」
と、彼氏は言ってくれるのですが、わたしは申し訳なくてたまりません。
そんなわたしが今現在チャレンジ中なのは、かにチャーハンです。
彼氏の作るかにチャーハンが絶品だったから、それを教えてもらったのです。
それにしても、かにばっかりですが、それもそのはず、彼氏もわたしも大のかに好き同士なのです。
入籍までに、何が作れなくても、かに料理くらいは上手に作りたい、作らなくちゃ、と思いつめる今日このごろです。
(完)