亡くなった祖母の好物の一つにカニがありました。
祖母は私が子どもの頃にはビールやお肉も好んでいましたが、年とともに、さまざまな食事制限も出て、あっさりとした消化の良いものばかりの食事をするようになっていました。
久しぶりに家族が揃って家で食事をしたのは、祖母を囲んでの時だったと記憶しています。
いつも自宅で出される定番のてんぷらや煮物、といったものの他に、大きなタラバガニが首尾よく切り込みを入れられた状態でどん、とテーブルの上に置かれていました。
家では、祖母がカニ好きで、お正月などによく食べたため、カニをとるための細い棒のような道具も揃っていたのでした。
カラを入れるボウルも手を拭くタオルも全て準備完了です。
カニをパキリ、と割ると、ふんわりとした身が出てきます。
そうっと折った片方のカラを取ると、すうっと身が出てきて、それをタレにつけていただきました。
身が甘くおいしかったことと、カニが祖母の好物であったから、食卓に出された、ということを今でもハッキリと覚えています。
祖母は自分の好物を家族にもよく勧めました。
おいしいと思うものを、自分だけでなく、みんなで夕飯の時に食べようという祖母の性格を家族が引き継いで、今でも何かあれば、みんなで、という考えが浸透しています。
あの時食べたカニも、祖母に喜んでほしいという親の気持ちだったんだな、と今改めて思うことがあります。