ずっと独身貴族の幼なじみがいます。彼は今どき珍しく、「男子厨房に入らず」的な家庭で育ったので、お湯を沸かすことさえ自分でしない男。なので彼の家族はいつも「外食ばかりなのではないか」と彼の健康を心配していました。
そんな彼が久しぶりに帰省して来ると言います。私も彼を心配している友人の一人として、彼を家に招待しようと考えました。
彼の大好きなものをいろいろ回想していると、小さい頃「コロッケ」が大好きだったこと、そしてエビやカニも喜んで食べていた姿を思い出しました。
「そうだ、カニクリームコロッケだわ!」とメインメニューのアイディアがピンと決まりました。これはきっと喜んでくれるに違いない!そう思いました。
なぜなら、「カニクリームコロッケ」は私の家庭でも滅多に作らないメニューの一つ。なのでおそらく、手作りの「コロッケ」は食べたことがあっても、お手製の「カニクリームコロッケ」を家で食べることって、少ないんじゃないかなと思ったからです。
まずは試作品を作って、うちの家族の反応を見てみました。材料は台所の棚の奥に「勿体ないから…」と、長いこと大事に格納されていた「カニ缶」を使用。家族たちの反応は「うまい!」「もっと食べたい!」の連続でした。
それもそのはず。私の家では「カニクリームコロッケ」は、お弁当のおかずに顔を見せるだけですから、いつも冷凍食品。手作りするだけで、本当に美味しくなるものなんですね。
そこで、彼を招く当日はもっと張り切って、本物のカニを材料にプラスしました。ただしそれは冷凍のカニ足でしたが、俵型に成形したコロッケの片側から、カニの赤いツメがちょこんと出ているのはかわいくて、高級感もあって、ますます出来上がりが楽しみになりました。
そして、待望の当日。
一緒にテーブルを囲んだうちの家族は、今まで見たことのない「カニクリームコロッケ」の豪華な姿に大喜び!彼もどの料理も全部キレイに食べてくれたので、私もとても満足していました。
美味しいものは人を幸せにするなあ…と余韻に浸りながら、食事後のコーヒーを淹れていると、うちの娘が彼に「好きな食べ物は何?」と訊ねています。
私は「カニかな?コロッケかな?いや、カニクリームコロッケかしら?」などと妄想しながら聞いていると、彼の答えはなんと「料理の上手な人が作った料理」。
私は頭をハンマーで殴られたような気がしました。
「そんな答えって、あるの?」一気に、彼に料理を作ってあげようという気持ちが消えていくのを感じました。
質問したうちの娘は、彼の答えの意味がよくわからない様子。そして、うちの主人は、ソファから私の方を見て苦笑い…
「カニクリームコロッケ」の切ない思い出。
食べてもらう相手によって、中身のカニを缶詰にするか、本物にするか、はたまた冷凍にするか… これからは考えようと思います(笑)。