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ばあちゃん、さようなら

昨晩も残業が続き、最終列車に乗って一人暮らしのアパートに帰りました。
家に着いた時にはすでに、午前1時を少し過ぎていました。
お風呂にお湯を溜め、ゆったりと疲れをとるように浸かりました。
ふと、来月の14日は、父方の祖母の三回忌である事に気づきました。
私は子供の頃、おばあちゃん子だったんです。
家は別々に住んでいましたが、よく週末の休みの日はおばあちゃんの家に遊びに行きました。
私が大学に入学した年、親戚で話し合って、おばあちゃんを老人ホームに入居させる事にしました。
おばあちゃんは一人暮らしだったのですが、足腰がだいぶ弱っていたんです。
大学2年の冬休み、私は久々に実家に帰省しました。
夜、家族で蟹料理のお店に食べに行く事になり、老人ホームに入居しているおばあちゃんも父が車で迎えに行きました。
先に蟹料理のお店に着いた母と私と妹の3人は、店員に個室を案内され席に座って父とおばあちゃんを待ちました。
店内は落ち着いた雰囲気の内装で、時々、他の客の談笑が楽しそうに聞えてきました。
15分くらい席に座って待っていると、父がおばあちゃんの座る車椅子を押してやってきました。
おばあちゃんは、私を見つめると「元気にしてたかい」と目尻を下げて聞いてきました。
久々に会ったおばあちゃんは、随分と年をとったように私は感じました。
私たちは、蟹のコース料理をそれぞれ店員に注文しました。
料理が出てくる間、おばあちゃんは私に大学生活の事や、食事に関する事を聞いてきました。
しばらくして、注文した蟹のコース料理が、それぞれのテーブルの上に並びました。
おばあちゃんは料理を見て、「まあ、豪勢だこと」と言って、笑みを浮かべていました。
私たち家族は、美味しく蟹料理を食べました。
おばあちゃんは、「お腹がいっぱいだわ」と言って残しましたが、終始笑顔でした。
私たちは食事も終わりお茶を飲んでいると、おばあちゃんが「お父さんにも食べさせてやりたかったわ」と言いました。
おじいちゃんは、私が生まれてすぐの頃に病死していたので、私はおじいちゃんの事を知りません。
おばあちゃんに、おじいちゃんの事を聞くと、「蟹が好きな人だったのよ」と教えてくれました。
蟹料理のお店を出た後、父はおばあちゃんを老人ホームに送るため、駐車場に車をとりに行きました。
車を待つ間、おばあちゃんは私の手を握り、目を潤ませながら「元気でね。後悔しないように生きるのよ」と言ったのです。
それから8ヵ月後の、夏の勢いも幾分和らいできた頃におばあちゃんは他界しました。
あの世で、蟹が好きだったと言うおじいちゃんと一緒におばあちゃんが、蟹料理を食べていればいいなと私は願いました。

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