記事内リンクには広告が含まれる場合があります。

カニの紅葉

 私はこれまでに、春、夏、秋、冬…と四季を通じて沖縄を訪れましたが、やはり「沖縄に季節はないよ」と言う誰かの言葉どおり、よそからきた私には、沖縄にあまり四季の変化を感じとることはできませんでした。
そんな季節感の薄い沖縄で、私は「これぞ、沖縄の秋では!」と思った感動的な光景を見つけました。それは沖縄市にある「泡瀬干潟」に連れて行ってもらったときのことです。
潮が満ちているときは、そこに干潟が広がるなんて思いもしなかったのに、青い海がぐんと向こう側に引いていくと、そこには広大な泥の湿地帯が大パノラマのように広がります。
私がそこを初めて訪れたのは、初秋でした。
干潟をズボズボ歩いていくと、私はすぐにある生き物の姿に目を奪われました。それは「片方しかハサミを持たない」奇妙なカニでした。しかもそのハサミは、自分の甲羅と同じくらい大きいのです。なんとアンバランスな!
それに「カニと言えば、ハサミは2本」という、決まり切った考えが私の中にはあったので、今にもひっくり返りそうなカニの姿にはあ然としました。
近寄って見てみると、そのカニは数匹で普通の(ハサミが2つある)小さなカニを囲んでいました。そして、その1本の大きなハサミをラジオ体操のように、ヨイショヨイショと動かしているのです。
それは『シオマネキ』というカニでした。ハサミを振るのはオスの求愛行動で、普通だと思ったカニは「メス」。雄と雌が外見でこんなに違うなんて、珍しい…
そして、その名前は、大きなハサミを動かす動きが、やがて満ちてくる潮を招いているようなので「潮招き」とつけられたのだそう。愛着が沸いてくるその名前に、私はますます興味をひかれました。
鼻に泥でもつきそうなくらい干潟を覗き込んでいた私も、ようやく体をそらして辺りを見渡すと、そこにはなんとなんと、もっとたくさんのシオマネキがウヨウヨしていたのです……
しかも、赤、黄、だいだい、茶、白、青などなど、いろんな色をした小さなカニたちが…。
「うわあ…」
それは夏の終わりから秋にかけて生まれてきた、シオマネキの赤ちゃんたちでした。出産の時期、小さな仔ガニたちは、赤、だいだい、黄色などカラフルな産着をまとって、黒い干潟のベットの上で新しい世界を歩きはじめるのです。
その美しい色の舞いを見ていると、これこそ「沖縄の紅葉」かも知れないという気持ちになりました。沖縄にも紅葉があるんですね。吹いてくる潮風にも、どことなく秋の気配を感じました。
心を澄ませば、どんなところにも季節はある…
そんな沖縄の秋。私はますます、沖縄が好きになっています。

コメントは受け付けていません。