カニの甲殻に「キチンキトサン」という栄養素が含まれていることは有名ですよね。健康食品やサプリメントなどでよく見かける名前です。
私はずっと「キチンキトサン」という一つのものなのかと思っていましたが、本当は「キチン」と「キトサン」って、別々のものだと知ったときはちょっと驚きました。人工皮膚にも使われたこともある優れたパワーも秘めているらしいのです。
ですが、カニについてもっとびっくりしたのは、カニがもげた自らのハサミや足を「再生できる」という事実を知ったときでした。
それまで、カメレオンの尻尾が切れても再生できるということは知っていましたが、まさかあんなに硬いカニの足がちぎれても再生できるなんて…本当に驚愕の事実でした。
それを知ったのは、高校時代の生物の授業。先生がその話に触れたとき、教室は「ええっ」という生徒たちの声でどよめいたのを覚えています。みんな、知らなかったんですよね。
でも、そのとき私は、教室のどよめきよりも自分の胸の中が大きく揺れたのを鮮明に覚えています。それは私が失恋中だったから…
その授業の一ヶ月程前、私は生まれて初めての告白をし、いともあっさり振られて、その失痛手からなかなか立ち直れずにいました。ショックでショックで、毎日泣きはらした目で過ごし、ずっと心はこのままなのかと思うくらいの人生初めてのトンネルの中にいました。
その時知ったこのカニの「ヨミガエリ」の事実。弱っていた私は「カニが自分の足を再生できる」という一言に、体中の細胞が一斉に目覚めたような気がしました。
「あんなに硬い足が再生できるんだとしたら、心なんて目に見えないものなら、もっと簡単に再生できるわ!」と思ったのです。
それから、私は図書館に行ってカニの生態について調べました。確かにたしかに、それは本当でした。私は体の底からフツフツと勇気が沸いてくるのを感じました。そう、甦ったのです。
カニの栄養分を摂ったわけではありませんが、カニの存在のすごさ、自然の力の偉大さに感動させられたことが、自分の中の再生スイッチがONになったのだと思います。
あれ以来、「カニ」は私のお守りになりました。私の携帯のストラップに、いつも赤いカニがぶらさがっているのは、そういうワケがあったから。心が落ち込んだとき、そのカニをぎゅっと握り締め、「ヨミガエレ」とおまじないを唱えると、結構、効き目あるんです。