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カニの味のわかる男

私が初めて「エビカニ食べ放題」のお店に行ったのは、大学3年生の時。ゼミの打ち上げで、担当教授と一緒にその店に行きました。
初めて見るフィンガーボール、カニの身をとるためのカニスプーンにカニナイフなどなど。私にとっては、どれも珍しいものばかりで興奮してしまいました。
エビよりもカニに目のない私は、カニにばかり手を伸ばし、食べ放題の時間いっぱいカニを満腹に食べる幸せに酔いしれていました。
ふと冷静に辺りを見てみると、ほとんどの学生たちがカニやエビに無心にしゃぶりついている最中で、落ち着いて会話を楽しんでいるのは、ゼミの教授と一人の男子学生だけでした。
「あの二人はエビ・カニが嫌いなのかしら?」と思いながら、それでも手を止めることなく食べ続けていると、「僕はタラバガニが好きでねえ…」とか「いや、毛ガニが最高ですよ!」などという声が聞こえてきます。
二次会の席で、何の話をしていたのかその男子学生に尋ねてみると、「好きなカニについて盛り上がっていただけだよ」と言います。「僕は毛ガニが最高に好きで、あの味は一番だと思ってるんだ」と嬉しそうに語ります。
私とその周りに居た2~3名の女子は、その男子学生の真摯な話し振りと、自分たちにはなかったカニについての詳しさに、もうすっかり羨望のまなざし。
もともと背も高くてカッコイイ彼は、女子の憧れ的存在でもあったのですが、その夜の一件で、すっかり彼は私たちの中で「いい男」の地位を獲得しました。
「いい男はカニの味がわかる」
それが、その時のゼミの女子の流行言葉にもなりました。。
それから、「いい女もカニの味をわからなくてはいけない!」という話になり、私たち女子4~5名のグループは「カニ倶楽部」を結成。毎月1回、いろんなカニ食べ放題の店に行って、カニの味を見分けられるようになろうという、バカな遊びを考え出しました。
しかし結局、続いたのは半年くらい。
その背景には、出費もかかるという理由もありましたが、カニを食べ放題で食べ過ぎて、ちょっとカニに飽きてしまったこと。そして、学生の私たちが行けるカニ食べ放題の店のレベルでは、そんなにカニの味が変わらないということに気づいたからでした。
と、バカな私たちがそんなことをしているうちに、その「カニの味のわかる男」は、恋人らしき女性と、いいお店にカニを食べに行っていたという目撃情報を入手。ああ、確かに彼の彼女になることが「カニの味がわかる女」になる一番の近道だった…と思いました。
「カニ倶楽部」から彼の恋人が選出されなかったのは、至極、賢明なこと。「カニの味のわかる男」は「女の選び方もわかっている」という結論に落ち着いて、私たちの「カニ倶楽部」は解散したのでした。

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