3年前の春のことです。
高校に入学し、1週間くらい経ったあと、新入生の研修があり、3泊4日で県外のホテルへ研修に行きました。
この研修とは、朝昼晩とクラスメイトと共に生活をし、校内の規則や社会のルールを知ろうというものです。
あって間もないクラスメイトとの生活、部屋の組み合わせは出席番号で区切っただけの適当なものでした。
もちろん期間が短いということもあって、一緒になったクラスメイトとは馴染むことができませんでした。
特に馴染めてなかったのは県外から来たという、明美ちゃんでした。
明美ちゃんは私とリナと同じ部屋になり、1日は何も喋れないまま過ごしました。
二日目の夕食は、クラスじゃなく、ルームメイトだけで食べることになっていました。
ホテルも豪華なら、料理も豪華です。
その日の夕食は、特に豪華で、カニがまるまる一杯ずつ、渡されました。今でこそかに通販を利用するくらいのカニ好きですが、当時はわからないことだらけ。
でも、高校生の私たちにカニをまるまる一杯渡されても、剥き方がわからずに戸惑ってしまいます。
リナと「カニのむき方とかわかんないんだけど、こんなのドーンって出されても困るよね~」なんて言いながらふと明美の方を見ると、当たり前のように足を外していました。
「え?!すごい!これどうやって食べるの?」リナと私はここぞとばかりに明美に話しかけました。
「ここをね、こうやってむいてね」明美は少し恥ずかしがりながらも、私たちに教えてくれました。
明美は福井県から引っ越してきたそうで、小学校の最後の年の給食には、カニがまるごと一杯出たそうです。
このことがあって依頼、その次の日の研修も、それからの三年間も、私たちはずっと仲良く学生生活を送ってきました。
「明美、最初はあんなに喋らなかったのにね~」最近はこの言葉がよく飛び交います。
「カニで仲良くなったようなもんだよね、カニ友!なんちゃって」明美はあの時思っていた以上に明るい性格でした。
高校でいきなりこっちに引っ越してきて、最初は緊張して家でも泣いていたそうです。
カニという故郷の懐かしさに触れて、友達が出来て今は「こっちに来てみんなに会えて本当によかった」とさえ言ってくれます。
高校でできた友達は一生ものだというのは本当で、私は大学生、明美とリナは社会人になりましたが、みんな県内に残り週末や時間が空いた時には、一緒にご飯を食べたり喋ったりしています。
つい先日、旅行に行こうという話になりました。
「どこに行く?沖縄とかにも行きたいけど、冬に行っても意味ないよね~」などと話をしていると、ふと明美が「福井にいかない?私の住んでた町なら紹介できるし」と言い出しました。
偶然、リナも私も福井には行ったことが無かったので、満場一致でいこうということになりました。
明美もずいぶん嬉しそうで、この間ご飯を食べた時に旅のしおりなんかを渡してきました。
もちろんその中には「カニを食べに行く」という項目が太字で、書かれていました。